アルベルゲを出て左上を見上げると、昨日訪れた教会は橙色、黄金色に輝きそびえ立つ。この光の当て方は計算し尽くされたものなのだろうか、間接的だからこそ荘厳さを醸し出して、自らが煌々と光を放つより一層、じんわりとした強さを感じさせる。あたたかくて、でも近づけない。早朝のこの時間は誰にも侵害されないように作られているようだ。
街を抜け、振り返ると日本語の石碑。1万キロ以上離れた先にいる人たちが残した軌跡。
フェンス越しに指で少し遊んだら後をついてきてしまった。猫と遭遇すると必ず足を止めてしまう。
中都市Ponferrada。街がやけに静かだなと思ったら今日は日曜日だった。昨日と打って変わって坂道は少なく穏やかなルートだけれど、山の疲れが残っているせいで体の節々がどことなく重たい。明後日にはまた大きな山越えだから、この辺りでつまづいておおごとにならないよう体調を万全にしなければ。
とりあえず朝ごはん。しょっぱいタルティーヌで小さなココットに用意されたトマトペーストをたっぷりバゲットに塗り、その上に生ハムを乗せる。シンプルで塩分を取れる上にカフェコンレチェで身体があったまり気力が回復。街を抜けるとまっすぐの緑道公園があり、天気も曇りがちで単調さに飽きそうになる。そういう時は音楽を聴いて、歌いながらモチベーションをあげていく。
遠くに白いかたまりが落ちているなと目を凝らしてみたら、すやすやと香箱座りで丸まり眠る猫。そこがちょうど気持ちいい場所だったんだね、おやすみなさいと声をかけた。
道沿いの畑に大きなかぼちゃがゴロゴロ転がっている。間も無く収穫だろうか、運ぶのはとても大変そう。そろそろ休憩したいなあというタイミングで良いカフェがなかったので、適当な場所に腰を下ろしてもぐもぐとドライフルーツを食べる。
昨日の小さな商店で買った量り売りのドライフルーツ、マンゴーとパイナップル、オレンジにバナナチップスとココナッツたち。果物が驚くほどジューシーだった。レーズンは持っていたからこまめに食べていたものの果実として楽しむには粒が小さい。やはり果肉が大きいほど果実感を得られるのだ。昔からドライフルーツを食べる人からすれば当たり前の話なのに、普段食べないものだから、巡礼中だからか感動して、イタリアで美味しいフローズンヨーグルトを食べたときを思い出したよ。よくあるものの美味しさの再発見。
小さな教会もスペインらしい豪華絢爛な装飾。
目的地前までにまたお腹が空いてトルティージャとオレンジジュースを注文。外に出るとパレードのタイミングと重なって民族衣装を着た男女の姿が列をなして行進していた。この9月はどこに行ってもお祭りの時期なのだな。
Rabanal del Caminoで食事について尋ねてきた人はカップルで歩くスウェーデン人で、今日も同じアルベルゲの部屋だったことから夕方一緒に食事をした。ふたりは6年間付き合っていて、今回Caminoを歩くことで改めてお互いのことを知ろうという目的だという。彼らの姿を見ているとひとつひとつの挙動に心配りが溢れていて、とにかく微笑ましい。その後、Astorgaで一緒だったスウェーデン女性とも再会して一緒に話をする。
控えめだけど丁寧で優しいスウェーデンの人たち。彼らの謙虚さは日本のそれに似ているところが多くありそうで、共に時間を過ごしていて心地がいい。
◾︎ 16/09/2017, MolinasecaからCacabelosまで