明日は満月。ほぼ真ん丸の月に向かって暗闇の中を進む。昨日の不安定な気持ちはトゥールーズのドミニクと1時間ほど話をしていくぶんか、和らいだ。たいした話はしていない。なぜわたしがリヨンに留学しているのか、それはサン・テグジュペリの影響だよというと、彼の話から始まって、フランスと日本の文化の違いや、今の自分の年齢である30歳の頃ドミニクは何をしていたのか、そして彼女の人生について。 共通の知り合いであるピーターに話は及んで、彼女は彼と出会って寂しさが和らいだわ、という。彼と会う5分前に教会にいたの。 誰かと一緒にいるのは面倒だけれど、彼は面白いわね。「教会もきちんと機能するのね(L’ég…続きを読む
月別: 2019年12月
孤独とするのか孤高とするのか【カミーノ 巡礼記15日目】
夜が終わる色、青の行き詰まった先の先の色。朝の始まりはそんなグラデーションが広がる。朝日がのぼる反対側に広がる眼前の色はまるで夢の世界のようで、歩いていても現実味がない。死後の世界はこんな景色なのかな。歩いていると、亡くなった人たちに偶然ばったりと会えそうな気さえする。 あの先生のことを思い出した。わたしが大学時代にいちばん尊敬していた人のことを。先生の授業をゼミ生徒としてみっちり聞いて、合宿で神戸の六甲に山登りをしたり奈良の明日香村を散策して運動会に参加したり、共に過ごしたのはわずか1年半ほどしかなかった。でもそれはそれで、濃密な時間だった。 先生は61歳でこの世を去った。まだまだやり残した…続きを読む
時間軸と、街々と、健康な自分の身体【カミーノ 巡礼記14日目】
ホテルでゆっくりと時間を過ごして9時半頃、近くのパン屋さんで朝食。せっかくだからのんびりと街の朝を楽しみたい、だけれども出発が遅れると日中の暑い日差しのなかで歩かざるをえないから出るなら早いほうがいい、と葛藤しつつ、テラスに珈琲を持っていく。緑がとても鮮やかで気持ちがいい、今日も快晴だ。 するとそこには、水色の派手な上着を着たオーストラリア人のピーターがいた。彼に出会うのは二日ぶり。巡礼当初に痛めた足の調子が悪く、スローペースで進んでいるという。とはいってもわたしも無理をしないスケジュールで歩いている。彼とはもう会えないかなと思っていたので、この偶然の再会は本当に嬉しかった。あと数分わたしの…続きを読む
美しさを選ぶのか、効率性を選ぶのか【カミーノ 巡礼記13日目】
「目的地まで”距離は長いけど美しい道”か、”距離は短いけど普通の道”か。さてあなたはどっちを選ぶ?」。分岐する道の途中、この質問を投げかけられた。目的地に早く到着する事だけが答えじゃないからと美しい道を選んだわたし。そして大半の巡礼者もその道を選ぶ。 Burgosの街並みは遠く向こう。小さく見えるのか見えないのか、どうだろう。よく目を凝らしてみれば住宅や建物が密集している場所がある。そんなところまで人間は歩いて行けるのだな、人間の足は強靭である。 ひまわりはすっかり枯れてしまい、うなだれている。巡礼途中に出会った日本人の女の子たちはこの光景をみて…続きを読む
無数の星で無重力を感じる朝【カミーノ 巡礼記12日目】
久し振りに長い距離を歩くので、6時出発と少し早めに。日の出は7時過ぎだからこの時間にアルベルゲを出ると真っ暗だ。そんな暗闇の中目を凝らしてCaminoの矢印を探す。巡礼のサインを見逃さないよう、慎重に。街を抜けると公園があり、これから当分の間は森林に入る。少し怖いなと身震いするも、覚悟をきめて進まなければ。 木々に埋もれた道の手前、ふと空を見上げると、敷き詰められたように広がる無数の星が!何度も写真に収めても足りない、かがやく光。ひんやりひっそり、静謐な雰囲気で、宇宙の存在を感じさせる。この気持ちの正体はなんなのだろう。自分が世界に生きる一つの生命体だという意識が身体の内側から漲ってくる。そし…続きを読む