昨日宿が一緒だったボルドー出身のマダム・アンと最初の街のカフェで会い、朝食を一緒にとる。彼女はオレンジジュースに砂糖を入れて飲んでいた。そのような文化を知らなかったので驚く。終わりには「ボルドーにいつでもおいで」「友達も呼んで来ていいからね」と連絡先を交換した。少しずつ道の終盤が近づいていて、その後もこの出会った人と関係性を続けていきたいか否か、という観点に変化している。 東京までは10,666km。そう考えると巡礼の800kmなんてそう遠くはないんだよね。 大きな標識も巡礼カラー。これなら迷うことはなさそうだ。 Rioja州では多く見かけたワイン畑の間を歩く。せっかくなら一粒、ということもせ…続きを読む
カテゴリー: Europe
乾燥果実の甘さをかみ締めて【カミーノ 巡礼記27日目】
アルベルゲを出て左上を見上げると、昨日訪れた教会は橙色、黄金色に輝きそびえ立つ。この光の当て方は計算し尽くされたものなのだろうか、間接的だからこそ荘厳さを醸し出して、自らが煌々と光を放つより一層、じんわりとした強さを感じさせる。あたたかくて、でも近づけない。早朝のこの時間は誰にも侵害されないように作られているようだ。 街を抜け、振り返ると日本語の石碑。1万キロ以上離れた先にいる人たちが残した軌跡。 フェンス越しに指で少し遊んだら後をついてきてしまった。猫と遭遇すると必ず足を止めてしまう。 中都市Ponferrada。街がやけに静かだなと思ったら今日は日曜日だった。昨日と打って変わって坂道は少な…続きを読む
ひたすら砂について考える登山道【カミーノ 巡礼記26日目】
Rabanal del Caminoのアルベルゲが素敵なのはバーカウンターが建物入口のそばにあり、靴を履く時にかならず通るためカフェや飲み物をつい注文したくなるところ。今朝も出発前にカフェを飲んでいる人がいて、いいなあと思いながらも今日の行程を考えて諦める。山道、ひとりでひっそりと早めに出発したいのだ。カフェ休憩は次の街で大丈夫。 まだ空には星が輝いている。山に入る前にカメラを固定し撮影。教会の鐘の隙間から見える空がまた美しくて大好きだ。深い暗さではなく明るい空だから、あっという間に日が登るだろう。この小さな街はどこか神聖な雰囲気をまとっていて、離れてしまうのが口惜しい。なぜその印象を受けるの…続きを読む
ご馳走するのも誤差の範囲内【カミーノ 巡礼記25日目】
今日の最高気温は16度。日に日に温度が下がっている。しかも気付かない間に標高も高くなる。今日は300mのゆるやかな登りで、最終的にたどり着く予定のRabanal del Caminoは1100mほどの位置にある。 この道で助かったのがUNIQLOのウルトラライトジャケットだった。夏だからいらないだろうと当初考えていたけれど、登山のシチュエーションを考えた時に、山頂は想像を超えて寒くなる。今いらないと判断しても先の私はどう判断するかわからない。重さもそれほどないわけだからと最終的に持参した。よかった、荷物の仕分けをしたわたしに感謝をしながら歩く。 Léonで離れたと思っていた免色さんに道の途中で…続きを読む
わたしがわたしだと悟られる時に【カミーノ 巡礼記24日目】
朝のひんやりしたこの時間が気持ちいい。暗闇の最中は、道を踏み外さないように気をつけて歩く、すれ違うひとがいない時はどこか不安にもなってしまうけれど大丈夫。道は複雑ではなく、ただひたすらに国道沿いをまっすぐだ。空のグラデーションを、地平の線をそのまま透き通す農耕車のガラス。手前からわざわざ小さな窓を通じて眺めるわたし。限定された狭さから果てしない世界を想像するのも悪くはない。水路に反射する空、道は続く、静かに、ときおり、車の轟音とともに。 一つ目の街にたどり着いた時には空はやわらかなピンク色、黄色、水色に変化する。この街で朝食をと思ったものの、まだ静かに眠る街だったから滞在はせずに通り過ぎる。お…続きを読む
既視感のある景色を確認する作業【カミーノ 巡礼記23日目】
今日歩く距離を朝まで悩んで朝6時ホテルのバスタブに浸かりながら考える。狭いお風呂で、ぬくぬくと、どうしようと。安い小さなホテルなのに、洗面台も必要なだけのサイズでしかないのに、それなのに心底安心するのはなぜだろう、お風呂の空間は自分一人だけのシェルター。誰にも邪魔をされない空間。そこで今日の計画を考える、とはいっても好きなだけ歩いても到着地点にアルベルゲがなければ意味はなくて、結局のところCaminoはアルベルゲの所在に左右されると実感する。 Leónからのアルベルゲポイントは4,8km先のTrobajo、7,5kmのLa Virgen、11,5kmのValverde de la Virgen…続きを読む
Leónの大聖堂、すでに再訪を願う気持ち【カミーノ 巡礼記22日目】
Burgos-León間はそれほど長く感じなかった。実際にこれまでの大都市PamplonaやBurgosといった大都市間の距離は長かったのかもしれないし、友人と一緒に歩いているから短く感じるのかもしれない。大都市に入る前の郊外の複雑さ、単調さもない。そもそも、一人で歩くときは考え事が存分にできていいし、二人で歩くと相手について話が聞けるのが楽しい。どちらもいいことは沢山ある。しいていえば「誰かと歩く」はその瞬間の偶然でしかなくて、明日に繰り越そうなんてことは不可能だ。だからこそ貴重でもある。 朝食はふかふかのトルティージャ、いつ作られたかわからない古いゲーム機。わたしが小学生くらいの頃にゲーム…続きを読む
理想のトルティージャに巡り会う【カミーノ 巡礼記21日目】
アルベルゲを一番遅く出発しても7:30。それでも外はまだ朝焼けの最中で完全な明るさはない。のんびりキッチンでお湯を沸かしてコーヒーを入れて、甘いカスタードパイを数分で食べたなら準備万端。朝甘いものを食べると気合が入るし、目が冷めるのだ。 13kmほど何もない道を直進。普段なら退屈するけど昨日知り合った日本人の女の子と一緒だから沢山お喋りして楽しくて、時間が過ぎるのを忘れる。同じ関西出身であることや部活動(偶然にも共通していた吹奏楽部)のこと、そこで担当していた楽器のことなど、驚くほどに話が盛り上がって嬉しかった。道の途中、ベンチやテーブルのある広場について少しだけ休憩。彼女がリュックから取り出…続きを読む
現状と同じ人生を選ぶのか、否か。【カミーノ 巡礼記20日目】
6kmと、8kmとお店も街も何もない道だからか、だんだんと感覚が麻痺して今自分がどこを歩いているのかさっぱりわからない。意識を繋ぐのは地面を踏みしめる足の裏の、確かな感覚。もう20日目で445kmも歩いた。残り339km、徐々に目的地までの距離感を掴みはじめている。 歩き始めた当初は、その距離を計算することで頭がいっぱいだったのに、いつしか数字は気にならなくなった。ただ目の前の、今日の1日をいかに楽しむか。上りも下りも、平らな道も、どんなふうにして味わうかしか考えていない。もしかすると、それが最後まで歩き切る秘訣なのかもしれないし、そういう感覚を持ってからこそ本当の巡礼が始まるのかもしれない。…続きを読む
秋、通り過ぎゆく季節を追いかける【カミーノ 巡礼記19日目】
2日前ほどに風の強い日があった。びゅうびゅうと吹きすさぶその風は北スペインに季節の移り変わりをもたらしたようで、歩いているとかすかに柔らかな秋の匂いを感じる。空は優しく澄んで、この秋の姿は日本でも感じたことががあると懐かしさに胸が高鳴る。季節のなかで秋が1番好きだ。特に落ち葉が舞い上がるほどの風のある秋がいい。 空の向こうをよく見れば、遠くの雲はくっきりとした夏の面影ではなく、秋の表情をこちらに向けている。どこか寂しさがあるだろうか、季節に置いていかれるような、はたまた通り過ぎる世界の後ろ姿を追いかけるような。通りかかった街の公園で、日本にいる友人に連絡をしてみる。「いま、424kmも歩いたん…続きを読む