ひたすら砂について考える登山道【カミーノ 巡礼記26日目】

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Rabanal del Caminoのアルベルゲが素敵なのはバーカウンターが建物入口のそばにあり、靴を履く時にかならず通るためカフェや飲み物をつい注文したくなるところ。今朝も出発前にカフェを飲んでいる人がいて、いいなあと思いながらも今日の行程を考えて諦める。山道、ひとりでひっそりと早めに出発したいのだ。カフェ休憩は次の街で大丈夫。

まだ空には星が輝いている。山に入る前にカメラを固定し撮影。教会の鐘の隙間から見える空がまた美しくて大好きだ。深い暗さではなく明るい空だから、あっという間に日が登るだろう。この小さな街はどこか神聖な雰囲気をまとっていて、離れてしまうのが口惜しい。なぜその印象を受けるのか言葉では説明できないが、ただ、自分のこころとその土地が持つ力とが呼応する。「もう少しいてもいいんじゃない?」と場所がわたしの手と足を引っ張りながら甘えてくるのだ。「ねえ、朝も昼も夜もどんな時間でもいいからこの場所の景色を知りなよ」と。

500m登って1000m降りる、そんな山道の一日。久し振りの山登りに初日のピレネー山脈越えを思い出した。今日もなかなかにきびしい坂道、かつ細い砂道で登山に慣れるよう身体の力を分散させながら動かす。そしてひたすら一歩、ただ一歩と進めているうちに思考回路が停止し、ほぼ何も考えないで歩く。途中「砂は何から出来ているのか」という疑問が終始頭の中から離れなかった。石、そのさらにもっと小さいのが砂だろうか、だとしたら土は何か。土の最小単位を砂とするのか、いや漢字をみれば「少ない石」、それでは砂はどのように定義するのだろう。

砂について、想いを馳せる。

空が広く遠くの山々が見渡せて気持ちがいい。平坦な道は歩いても見渡す景色が変わらない。しかし、山道は歩けば歩くほどに景色が変容する。

Cruz de Ferro。映画「星の旅人たち」でも後半の重要なシーンで、主人公たちは各自の大切なものをここに置き前に進んでいった。一般的には道の最中に拾った石をここに添えていくから、十字架の山は辺りからひときわ高くなっている。

わたしはというとそのような重要な場所だと気づかず、一緒に歩いていたフランス人のミシェルと特に大きな感傷にひたることもなく、写真撮影だけをしてあっけなく通り過ぎた。後から気づいたのだ、あれが映画の鍵となるシーンの場だったと。

連なる山々。遠く向こう側に見える山の道、歩いていけばどのくらいの時間がかかるだろう。こんな時には空をそのまま飛びたくなる。こちらからあちらまで。鳥のように自由に空を飛べたら幸せなのにな。

El Acebo de San Miguelで一旦休憩。自転車巡礼の人たちもちらほら見かける。下りは結構道が細くて急で歩くと滑るから神経を使うものの、自転車だともっと危なそうだ。一歩間違えれば、一瞬気を緩めればあっという間に落下して取り返しのつかないことになってしまうよ。

Molinasecaの教会の前でスコットランド出身の女性と会話。あなたの英語は(speak wellではなく)beautifulと言われ発音を褒められる。発音を褒められたのはLeonでもあったので、仏語を学んだことによる思わぬご褒美のよう。今回歩いていても英語の引き出しを全然開けないままここまできてしまったし、もう一度英語もきちんとやり直そうかな。

今日はほとんどの時間をミシェルと一緒に歩いた。彼とはAstorgaからRabanalまで歩く昨日午前、道の途中で「元気ですか?」と聞いたら、「元気に決まってるよ、俺のどこが疲れているように見えるんだ、ただゆっくり歩いているだけじゃないか」と3倍返しの返答にあって、面倒なタイプの人だと思って関わるのやめようと思っていた。ただ、夕方私が別のフランス人と話しているのに興味を持ったらしく、今日はなぜだか優しい顔付きになって物凄く面倒をみてくれた。

「大丈夫か」「次の街まであともう少しだ」「写真撮ってやるよ」「下りの道ではスティックを長くするんだ」等々。つくづくフランス人は面白い。この間会った日本人の女の子から言わせると「フランス人はファミリー感が強い」そうだが、仏語が話せることで彼の中でわたしに対する捉え方が変わったのか。

おじいちゃんのミシェル、背はわたしよりも大きく肉付きも良い。半ズボンでふくらはぎにぴったりあげられた靴下が彼の几帳面さをあらわしている。足取りはゆったりしていて60才は軽く超えているだろう。この人にどんな人生があったのか、何を背負っているのか、わたしには知るよしもない。

いろんな国の人がいて、いろんな考え方がある。このCaminoではそんな当たり前のことを思い知らされる。そろそろ終わりに近付いているのも、なんだか寂しい気がする。

◾︎ 15/09/2017, Rabanal del CaminoからMolinasecaまで