無数の星で無重力を感じる朝【カミーノ 巡礼記12日目】

Camino Espagne Europe

久し振りに長い距離を歩くので、6時出発と少し早めに。日の出は7時過ぎだからこの時間にアルベルゲを出ると真っ暗だ。そんな暗闇の中目を凝らしてCaminoの矢印を探す。巡礼のサインを見逃さないよう、慎重に。街を抜けると公園があり、これから当分の間は森林に入る。少し怖いなと身震いするも、覚悟をきめて進まなければ。

木々に埋もれた道の手前、ふと空を見上げると、敷き詰められたように広がる無数の星が!何度も写真に収めても足りない、かがやく光。ひんやりひっそり、静謐な雰囲気で、宇宙の存在を感じさせる。この気持ちの正体はなんなのだろう。自分が世界に生きる一つの生命体だという意識が身体の内側から漲ってくる。そして猛烈な孤独感が押し寄せる。ぽつり、とたったひとり存在する個。私は永遠に私でしかないという事実を思い知らされる。でもそこに寂しさはなくて、どこか心でさえも無重力。

今日のビッグイベントはVillafranca Montes de Ocaの山越え。高低差のある距離を歩くときは足をくじいたり、こけたりしないように慎重に。緑の中を歩くといっても、木々に囲まれた平坦な道もあれば鬱蒼とした山道もあって、その違いは植生にはっきりとあらわれている。山はおもしろくて、坂をぐっと降りたと思ったらまたすぐ登りになる。なんのために登ったんだろうと思うけれど、そもそもで言うならば山に足を踏み入れる必要なんてなにひとつない。ただ楽しいからやっているだけ。その理由で十分すぎるじゃないか。

たどりついた山頂にはバルとアルベルゲ。もちろんオレンジジュースで休息をとり、来た道の距離と高低差を確認する。

Ortegaの山を降り、13時過ぎにAgésに着いた。到着後のランチはレストランのテラスに座っていた巡礼者から「ここは絶対おすすめ!」と教えてもらった場所で。山盛りサラダ、チキンとポークのソテーなどを食べる。レストラン兼アルベルゲだと思って、1拍泊まれますか?と尋ねてしまった。

お店を仕切っている女主人は「ここは宿じゃないのよ、近くにあるからそこに泊まって」と優しく教えてくれた。内装がとてもあったかくて、ここで泊まれたらとても居心地がよさそうだけれどなあ。

昼食兼夕食を兼ねて、メニューを注文。その後にがやがやと常連客のおじさんたちが集まってくる。女主人はテキパキと料理をこなしながらも、彼らとのお喋りが永遠に止まらない。スペイン語でべらべらと繰り広げられているけれど、なんとなく単語の節々に理解ができる。10日以上スペインに足を踏み入れていたおかげか、コミュニケーションって面白いな。

シエスタした後教会に立ち寄り、アルベルゲの前で座っていたシアトル出身のチャンスと話す。チャンスは頭にバンダナをリボンの様にして結んでいる若くて可愛い女の子。名前も素敵だ。「シアトルに来てよ!うちに泊まっていいから」と太陽のようにまぶしい笑顔で、こういう若い女の子もひとりで巡礼をしているんだなと思うとどこか嬉しい。

ギターを持った巡礼中の青年の周りで人が音楽を楽しんでいて、近くを通りがかったところ、「参加しなよ!」と音楽会に強制参加することになった。好きな曲をなんでもリクエストしていいよと言われたので、Beatlesをお願いする。そして一緒に歌う。音楽は、言葉以上に心と心で繋がれる。

いよいよ明日は大都市Burgosである。大都市では連泊するつもりが最終目的地の到着日程を計算したところ時間がもったいないなと思い、いつも通りの1泊のみに変更する。早めに着いてホテルでゆっくり休んで観光しよう。今はとてもポジティブで、先へ先へと歩き続けていたい。

▪️01/09/2017, BeroladoからAgésまで, 28.1km, 43,769歩▪️