村上春樹の小説の一節のような時間を過ごした昨夜。それでも特に彼らとの誰とも約束したわけではないから、今朝もまたひとりで歩き始める。朝7時過ぎの朝焼けも美しかった。何度も立ち止まってカメラのシャッターを切ると、あっというまに電池切れ。しまった、充電するのを忘れていた。
最初の街はとても可愛らしかったのにこんな日に限って充電がなくなるなんて…。とはいえそういう日もあるか。写真を取らなくても記憶に残る。そもそも昨晩の食事は思い出にとどめておきたかったから一切写真をとらなかったのだ。
最初の街Grañónで朝ごはん。Barの名前は「My Way」。女子大学生の二人とも再会したので、一緒に朝食をとる。昨日の免色さんとの食事についてあらためて不思議だったねと、すごい人だったねと会話をした。彼女たちは彼の名前をネットで検索したらしく、その情報によると今は引退しているけれどコンサルティング畑では相当な立場の人だったとのことである。本も出版していたのだとか。
彼自身は既に引退しているといったが、そんなに年配ではない(おそらく50代)。いろんな生き方があるんだろうなとしみじみ思う。
単調な道が続く分距離も長く感じた。イメージした緑色の草原を心地よく歩くような巡礼と違って畑が茶色い。夏の収穫の時期を終えてしまった頃合いだからかな。気持ちの良い草原というのをあまり見かけなくなった。山があったり景色が変わると距離を感じないものなんだな、と考えてみたりしてみる。
歩く道に反して、たどり着いた街Beroladoは面白かった。今日はフェスティバルの日だったのである。もはや曜日感覚はなくなっているが本日8月31日木曜日。8月最終日だから開催されていたのだろう。中心部の木々にライトが施されていて街中に人がわんさか。地元住民が狭い路地に集まっている。
14時に到着しそのままアルベルゲCuatro Cantonesのレストランで前菜、メイン、デザートのMenuを注文、遅めのランチをする。選んだのはパエリア、チキン、プリン。リオハワインも付いていて幸せなご飯だった。もはや私は美味しいお酒を飲むために毎日歩いているみたいだな。また明日も美味しいお酒が飲めますように、と。
そして浮き足立つ街中へ再び足を延ばす。
自分が結婚式をするなら、こういうこじんまりとした緑のある広場でみんなが楽しめるようにして開催したい。別に私の幸福なんて祝わなくていいから、ただ美味しいもの食べたりおしゃべりしたり笑いあったりする時間を作りたい。むしろ私の結婚式なんて忘れてくれていい。そんな小さな規模と場所に移住できたらどれほど幸せだろう。
実際にBeroladoの住民の数はわずか約2,100人程度だという。普段東京や大阪という首都圏に住んでいる身からするとどれだけの小ささかがよくわかる。でも中心街があるから散り散りにはならない。集落としてきちんと形成されている。
ぼんやりとステージを眺めている。そのときに声をかけてくれたオーストラリア人の女の子は、彼女もまた巡礼者で、わたしが日本人であること、その存在をどこかで知っていて話したかったのだと切り出した。同世代の彼女はホテルで泊まるらしい。わたしは金銭的にも体験としてもアルベルゲを選び8人部屋みたいな大きなところで宿泊するわけだけど羨ましいなあという気持ちはあまりない。ただいろんな立場、考え方があるだけだと。
次第にステージに異変が起きる。キリストを模したアーティストが登場し、歌を歌うと思いきや十字架に磔になって、空に浮かんでいるではないか。
こんな田舎街で、磔になるキリストを見るとは思わなかった。
今日のアルベルゲも門限がある。門限は絶対で、時間内に帰れないと外で野宿をせざるをえない。受付する時点でその時間をちゃんと確かめて、必ず守る。本当はもうちょっとお祭り気分で楽しんでいたかったけれどそそくさと退散して、宿に戻り就寝。宿の二段ベッドは木組みなので嬉しいし、シーツもチェックでかわいかった。同室の二段ベッドの上にフランス人のブノワもいた。お兄ちゃんがいるから大丈夫、だなんて安心できる夜だった。
▪️31/08/2017, Santo Domingo de la CalzadaからBeroladoまで, 24.2km, 36,986歩▪️