一期一会の意味を知るパンプローナ【カミーノ巡礼記3日目】

Camino Espagne Europe

夜中にざあざあと雨が降ったようだ、確かに夢の中だったかうろ覚えの意識下で雨音や雷が聞こえた気がする。小さな窓から必死にスペースを見つけて干した洗濯物はもちろん乾いていない。雨の予感をみせなかった昨晩の空を恨むでもなく、仕方ないからとリュックに靴下を吊るし、乾かしながら歩くことに。幸い、朝のスタートは霧がかかる程度だったので安心して1日のスタートを切る、時刻は7時半。

昨晩のアルベルゲでは6人部屋で、その部屋を占めたのはほぼドイツ人だった。母と息子の2人と20代の女の子たち3人。就寝前には賑やかにおしゃべりを始めて、話に終わりが見えない。「眠れないから静かにして、ここはあなたたちの部屋じゃない」。そんな言葉を彼らに伝えた。カミーノでは全てが自由な訳ではないし、他者に敬意を払えない人に対して我慢する必要はない。でも歩き始めて3日で誰かに忠告するなんて思ってもみなかったな。

今朝の歩く上での議題は、それがテーマになった。ドイツ人の気質について。私はドイツ語をきちんと知らないけれど、彼らの話が盛り上がる流れは自然と耳に入った。3人の女子が母親に声をかけ、どこ出身なのかとか巡礼の理由などについて語り合っていた。自分と同じ国籍を持つことに心地の良さを感じるのは当然だろう。例えばあの場所にいたのが日本人だったなら私も同じように盛り上がっていたかもしれない。フランス人同士なら、アメリカ人なら、韓国人ならどうだろう。collectivism、集団主義について考える。

そんな時にふと後方から声をかけてきたカリンもまたドイツ人だった。今日はやたらとドイツについて考える日だ。

二人で雑談しながら歩いていると古びた建物に出会い、そこで庭の整備をするおじさんが建築物の説明をしてくれた。どうやら13世紀に建立された教会だそうで、それを立て直すのはかつての巡礼者だという。その巡礼者とはドイツ人の女性。巡礼中この教会に出会い「私のやるべき事はこれだ」と覚悟を決め、サンティアゴまで到着したのちドイツに戻り、荷物をまとめてここに戻ってきたそうだ。

カリンは彼女に強く関心を持ち20€を寄付していた。私も少しばかりの気持ちを置いた。

小さなバルで韓国人のイェンに再会する。彼女は別の韓国人グループと仲良くなり、共に行動しているようだ。最初は一人でもこうして仲間を見つけていく。一緒に食べようよと誘われ、遅めの朝ご飯に合流。大きなスパニッシュオムレツ、トルティージャを注文した。これがとっても美味しかった。じゃがいもと卵だけのシンプルなオムレツなのに食べ応えがあって付け合わせのバゲットにぴったり。普段手を出さない甘いものもつい食べたくなるのは、無意識下で糖分を欲しているのかも。

注文の列に並んでいると、昨日の朝早くRoncesvallesの近くの街で出会ったスペイン人のぺぺ夫妻を見つける。ぺぺは私の存在に気づき、「俺の名前を覚えてるか?ぺぺだよ〜!」とご機嫌な様子。他の巡礼者ともすっかり仲良くなりあちこちで談笑している。こういう立場で出会う関係性は何なのだろう。街中で出会っていたら知らない人なのに、年齢を超えて友達や仲間のような間柄で話ができる。ぺぺは大学で働く職員だそうで、頭にかぶる青い帽子の中央部分にはその大学のロゴが美しく目立っていた。

昨日と変わらず25km以上の長い距離、ただ坂道が少なかったのでさほど辛くは無い。ひたすら大きな道路沿いを歩き、山道に入り、徐々に建物が増えて街に入る実感が湧いてくる。今日の目的地はPamplona、牛追い祭りで有名なナバラ州の大都市。

郊外にある質素な建物、マンションを横目にしてようやくたどり着いたPamplonaの入り口は、かつての城塞都市だった姿を容易に想像させる。ここから旧市街が始まる。門をくぐって坂道を登ればカラフルな建物が所狭しと建てられている。都会だ。ここ3日間泊まった小さな街とは全く異なる。

あんなにも歩くことが苦しい、辛いという気持ちでいっぱいだったのに、Pamplonaに着いて、まだまだ全然大丈夫だと思えてくるから不思議だ。ただ歩いてどこかにたどり着いて、小さな達成感で心を満たしていく。大都市は2泊して休息し観光するのがいいのかもしれない、そうでもしないとこのスペインの都市を旅する機会なんて滅多にないのだから。

身体を休めて気持ちを新たに歩き始めよう。きっと同じ日程でスタートをした人達とは会えなくなる。アルベルトやコーリンにも会えずじまいで、もしかしたらと街のどこかで見かけるんじゃないかと期待してしまったけれど、カミーノは一期一会なのだ。タイミングを逃したら会いたい人にはもう、二度と会えない。

◾️23/08/2017, ZubiriからPamplonaまで, 26.2km, 38,222歩◾️