ミサの途中で博愛精神について考える。【カミーノ 巡礼記9日目】

Camino Espagne

昨日のNavarreteがすごく素敵な街でアルベルゲも快適だったし教会は美しかったしで、胸いっぱいの名残惜しさを抱えながら歩きはじめる。7時スタート、今日も美しい街に出会えるかもしれないと期待とともに。

道の途中で再会したスウェーデン人のラグナル。サンティアゴまで593kmだと表示があったよ、と話すと、「信じないね!」と疑心暗鬼。優しい頑固さがかわいいおじいちゃんだ。そういえばわたしも最初の頃は距離を見ても、実際よりその道が長いことが多かったから「嘘つき!」と信用していなかったな。

とはいえガイドマップで確認しても600kmは切っている。歩き始めた翌朝Roncesvallesの街でSantiagoまで790kmと表示を見つけたときは「なんて果てしないんだ…」と思ったのに、もうそんなにも歩いたんだ。(実際その距離は車道の数字で758kmが正しい巡礼距離だった。)

明日で歩き始めて200kmを超える。少しずつ着実に、サンティアゴに近づいている。

最近は空の色がよくわかるようになって、歩き始めの最初はぼんやりと柔らかい水色だったのが次第に青色がくっきりする。それは早朝が終わった証拠。本格的な厳しい暑さはどうやら少し落ち着いてきた模様で、随分と風も気持ちよくなってきた。

歩いていると、畑の犬か野良なのかわからない子がふらりとやってきた。君はこの土地で何人の巡礼者を見てきたのだろう、何か発見でもあったかな。相手をすると名残惜しそうにちょっと付いてくるのが可愛らしい。

Nájeraは街の奥に岩のような、頑強な赤茶色い崖がそびえ立っている。川の手前から見えたその板はまるで街の守り神みたいだ。そんなふうに橋を渡りながら考えていると、橋の真ん中にいるヴァンサンを見かけた。Viana以来の再会である。

知らない街で、顔見知りがいるなんて変な感じ。ヴァンサンとは一緒に歩くこともなかったけれど、どこか心の奥底で安心しながら会話ができる人だった。この出会いを忘れたくないから、と「写真を撮ってもいい?」と尋ね、パチリと一枚。彼はまだ次の街まで歩くという、わたしは今日はNajeraで終了、ここで別れたらもう会えないだろうとわかっていたけれど、連絡先を聞くこともなくさよならをした。

そういう刹那的なことも含めて、巡礼のいいところなのかもしれない。過去にどうだったかとか、未来にどうするだとか、複雑さにいちいち踏み入らない。遠慮とかそういうことでもなくただ「今・現在」が一番大切で。

宿は今日は二段ベッドではなく一段の個室にしてもらった。一軒家の小さなアルベルゲだが、清潔で気持ちがいい。食事はいつものようにサラダとガレット、そしてキッチンで温めたかぼちゃスープ。近くのスーパーはキャップの付いた安いサングリアやワインが充実していて、瓶でワインが飲めない分こういうのがいいよなあと、嬉しくなった。いつもはビールばかり飲んでいるから。

シエスタして街歩きして、タイミングが合ったので2日連続でミサに出席。

巡礼地でのミサは最後に巡礼者への祈りを捧げてくれる。皆が無事に辿り着けますようにと。言葉はスペイン語だから全部は分からないけれど、ただ神父の言葉を聞いている間、瞑想にふける。信仰とは何かについて考える。他人を自分のように愛すること。博愛精神について、今一度掘り下げてみる。

部屋に戻ったら、自転車で巡礼している二人組が同室にいた。こんばんは、と軽く挨拶して眠る準備。今日宿泊しているアルベルゲの壁に書いてあった言葉がやけに心に残った。
『Nothing behind me, everything ahead of me, as is ever so on the road.』Jack Kerouac, On the Road。

▪️29/08/2017, NavaretteからNajeraまで, 19.3km, 30,291歩▪️