Pamplonaに2泊したおかげで、体力や気力はしっかりと回復済み。その分朝早く出発ができると夜明け前、朝6時に町を出る。暗いからか巡礼の矢印サインが分かりにくい。でも同じ時間に歩き始めた巡礼者たちがいる、彼らの後を追いかければ大丈夫だ。郊外にある工場や大学など大きな施設をすり抜けていくと徐々に太陽は顔を出して、全体の空色も明るく変わる。今日もきっと暑くなる、スマホで天気予報を見るとどうやら気温は35度を超えるらしい。
朝焼けはいつも美しい。何もない茶色い畑を黄金色に染める。
今日は770mの丘「Alto del Perdon」を越える。赦しの峠という有名な場所らしいけれど、そんなことはつゆ知らず。丘の手前では正面からアジア系の男性が歩いてくる。彼は、私がこの巡礼で初めて出会った日本人だった。「こんにちは」と声をかけられ、懐かしい日本語の響きに「日本人ですか!」と嬉しくて、喜びが全身をかけめぐった。久しぶりに日本語を話し、なつかしくてついたくさん喋ってしまった。
「昨日まで辛くて、なんで歩いているんだろうって、自分で決めたことなのにどうしようもなく疑問が浮かぶんです」弱気の私に、彼は笑顔で答える。「大丈夫、1週間を超えるとね、慣れてくるんだよ」。
巡礼に魅了された彼はこの7年の間、様々な道を歩いているらしい、今回はアルルの道。フランスのArlesから目的地のPuente la Reinaまでのおよそ900km、40日間を歩き終えPamplonaへ向かう今日が巡礼最後の日であると…。すっかり焼けた肌に表情は清々しい。私も来月には彼のようになっていたい。
丘を一気にのぼりつめ頂上で休憩。普段は食べないのに甘いものが食べたくなってカップケーキを選んでしまった。飲み物だって大好きなコーヒーじゃなくて甘い炭酸ジュース。その名もKAS(カス)。ちょっと笑ってしまう名前。
丘の上には巡礼者のモニュメントがあり、何人もの巡礼者が記念撮影をしていた。この景色はどこか見覚えがあると思ったら映画「星の旅人たち」でも主人公たちが像のそばを横切ったんだった。私はあの映画と同じ体験をしているんだなあ。
下りは急な坂道で大きな石がごろごろ転がっている。登りでは気持ち良さそうにすいすいと自転車で駆け上がっていた巡礼者がいたけれど、降りるときは結構大変そう。
Santiago de compostelaまでの距離は700kmを切った。着実に進んでいる実感はある。
通り過ぎていく人はもう、顔見知りではない。でもまた、新しく誰かと知り合い、言葉を交わす。スコットランド人の夫婦は音楽をかけながら歩いていた。耳馴染みのある曲だなと思ったらArcade Fireだ。ちょうど6月にフランスのリヨンにあるThéâtre Gallo Romainでライブに行ってきたよ、と話せば、当然ファン同士なので盛りあがる。こういう時に気軽に声をかけられるのがカミーノの醍醐味かもしれない。普段の日常でいきなり声をかけることってないもの。
今日の目的地Puente la Reinaの手前3kmにあるObanosという小さな町にたどり着く頃には、太陽が燦々と輝いていて、これ以上歩くと脱水症状になりそうだなと身の危険を感じる。水分補給をしっかりして、できるだけ歩く速度を上げなくては。のんびり歩いていると余計に体力を消耗する。
Puente la Reinaは変わらず小さな町だけれど、美しい雰囲気にまとっていた。何がそうさせるのだろう。建築様式だろうか、それともベランダや路地に飾られた花たちによるものだろうか。
公営アルベルゲで洗濯を済ませ夜ご飯をどうしようかなと居間で考えていたら、またもや日本人に出会った。夫婦で巡礼をしているとのことで、今夜私と同じアルベルゲに泊まるらしい。巡礼経験は豊富で信者だということもあり、話は興味深く、密度の濃いおしゃべりの時間を過ごした。信仰、教会、質問したいことが沢山あった。まさに巡礼の知識をここで得た気分。
その後小さな商店で買い物。近頃はこういう場所で何を買えばいいかわかるようになってきた。ツナの缶詰、バゲット、トマト、チーズで立派な食事になる。暑いから日持ちはしないだろうけれど、明日の朝食かランチとしては十分だ。
バルで注文するときに、仏語でどうしようかなとぼそぼそ呟いているとお兄さんが恥ずかしそうにはにかみながら仏語で説明してくれた。学校で仏語を学んだらしい。感謝の気持ちをしめすために、こちらも知っている全てのスペイン語を総動員して返事する。嬉しいひととき。
きのこのトルティージャ。味はどれも濃いめでしょっぱいのがバゲットにはあうし、ビールが進む。今日をしっかり歩いたご褒美でもある。歩き終わった後のビールってなんでこんなにも美味しいのだろう。むしろそのために歩いているのではと疑うほどに、あっという間に飲み干してしまう。
一日25kmくらいのペースが自分にはちょうどいいのかもしれない。無理をする必要はないし、誰かと足並みを揃えたいわけじゃない。そう思えるのは昨日1日Pamplonaで連泊したからだろう。それに小さな街のアルベルゲに泊まるのもまた、面白味があって楽しいのだから。
◾️25/08/2017, PamplonaからPuente la Reinaまで, 30.6km, 47,004歩◾️