フランス人の道を34日で達成する計画でいえば、今日はEstellaまで到達しておきたいところの巡礼5日目。
巡礼初日に会った韓国人のイェンとは毎日連絡をとりあっている。「今日はどうだった?」「体の調子は大丈夫?」。足が痛いよと嘆く彼女は、案外この巡礼を割り切っていて「すべての区間を自分の足で完走することが必ずしも成功とは限らないと思う。個人個人の巡礼は違うから…」とすでにバスに乗ったり、荷物預けのサービスを利用したりしている。
34日自力達成計画がどうしても頭に浮かぶ私は、プライドが高く、意地になっているのかなと思った。イェンの言うとおりで、自分自身が納得していればどういうペースでも構わないのではないか。よくよく思えば私の人生なんて、意地で成り立っているようなもの。誰かが出来ているから私にも出来ないはずはない、努力すれば解決する、自分に課した量をこなせて当然、そんなふうに昔から考えていた。
巡礼を何年もかけて部分部分をつなぎ合わせて達成する人もいれば、自転車で数十日の間にあっという間に巡る人もいる。意固地にならなくていいよね、本当に。
Puente la Reinaの朝焼け。路地を照らす光、うっすらと空に星も見える。
街の名前の語源は「王妃の橋」というそうだ。
今日はひたすら畑を歩く1日。日差しを防ぐ場所がほとんどなく、気温はぐんぐんと上昇する。いたるところに葡萄の房。すこしだけつまみ食いしてもよかったなあ、なんて後悔している。礼儀正しく一粒も食べなかったから。
壁のひとつ、ブロックに塗られた巡礼の印。水色と黄色。その色を見るだけで方向すらも認識できて安心。
Cirauquiに潜む猫たち、警戒しつつも巡礼者たちをじっと、そっと見守ってくれた。
日本だとこんなにもなみなみと注がれたオレンジジュース、ズモデナランハはありえない。それぞれのお店の裁量で決められる配分。こんなにも雑に提供されるのが常になってしまっているものだから、普段の日本での生活だと物足りなさを感じそう。あとはしぼりたての鮮度についても。
その雑さ加減が好きだ。ヨーロッパはいつもどこもその「雑さ」を感じる。なんでも厳密に、丁寧にやるのなら機械で十分。そうじゃなくてムラがあるからこそ人間の手を感じられるし、良くても悪くてもコミュニケーションが生まれる。
緑のトンネルは数十分ほどしか味わえなかった。このあとはかんかん照りの太陽のした、コツコツと歩く亀のように10kg近い荷物を背負って歩いている。目的地はどこだ、まだ見えない、はやく、そんなふうに心が叫ぶ。休みたくても休めない。なぜなら日差しを浴びながら休息など不可能だから。なんとしてでも辿り着かねばならない、次の街へ。
そしてようやく到着したVillatuerta。小さい街ではあるものの、アルベルゲは1軒ある。そしてもうEstellaまでのあと4kmを歩く体力がない。今日はここで泊まろう、そう決めたAlbergue La Casa Magicaは私営なので一泊14€と少し高めだった。でも二段ベッドじゃないし、ハンモックはあるし、キッチンも充実。部屋には一番乗りで好きなベッドの場所を選べた。居心地がよくて、静かで、今日はここに泊まって大正解だ。
近くのスーパーで買った缶詰のサラダ、パスタ、ビールで昼食兼夕食。それから好きな色のハンモックを選んで、シエスタをする。暑さはとどまるところをしらず、日陰にいてもその熱を感じたよ。
巡礼の仕方なんてどこにもない。その正しさだって同様だ。シンプルに楽しめばいい。搾りたてのオレンジジュース、シャワーを浴びお昼ごはんを食べた後のハンモックでのシエスタ、スペインの電車もない名前も知らなかった街で一晩を過ごす運命、人生は面白いと実感できることの幸せを。
◾️26/08/2017, Puente la ReinaからVillatuertaまで, 22.8km, 34,584歩◾️