今日歩く距離を朝まで悩んで朝6時ホテルのバスタブに浸かりながら考える。狭いお風呂で、ぬくぬくと、どうしようと。安い小さなホテルなのに、洗面台も必要なだけのサイズでしかないのに、それなのに心底安心するのはなぜだろう、お風呂の空間は自分一人だけのシェルター。誰にも邪魔をされない空間。そこで今日の計画を考える、とはいっても好きなだけ歩いても到着地点にアルベルゲがなければ意味はなくて、結局のところCaminoはアルベルゲの所在に左右されると実感する。
Leónからのアルベルゲポイントは4,8km先のTrobajo、7,5kmのLa Virgen、11,5kmのValverde de la Virgen、その次14,5kmのSan Miguel。一応の行程としてはVilladangos del Paramoまでの22kmがある。
そういえばTours出身のコリーヌは以前、フランス国内を歩く巡礼ルートでは20km単位でしかないと語っていた。こんなふうに今、歩く道をどこまでにしようという考えすら通用しないのだ。なかなかハードな道のりである、自分には到底できない道。
中途半端な気持ちのままチェックアウト。この街にまだいたい、でもいたくない。それでまずは朝ごはんからとゆっくりと朝食をとる。クロワッサンのサンドイッチ、大聖堂の手前の小道の、洒落たカフェであらためて冷静になって考える。周囲にひとりも巡礼者はいない。観光客だらけの、まさに観光地。
ちょっと硬いハムに、とろけるチーズ。そして芳醇なバターが折り重なったクロワッサン。
今日も晴天で美しい、そびえ立つ様子のLeónのカテドラル。Burgosの大聖堂をきちんと味わえなかった分をこの街で補っているかのようだ。それにしても今日もこの場所に居続けてもよいと思わされる、求心力の強い街の力。まだまだ見るべき、訪れるべき場所はたくさんあるだろうと小道を歩くたびに誘ってくる。免色さんや友人はすでに出発したのだろう、彼らはそもそも歩く速度が早い。私ほどのゆっくりした速度では追いつかないし、また出会えるとすればあえて都市部を満喫しているのだろうけれど、都市部を超えれば足並みは大きく人と変わり、再会は難しくなる。
以外に300km近くなのか。それほどもう遠くはないような気がしてくるね。
パラドールという元修道院で現在は豪華ホテルとなった施設に確か免色さんは宿泊するといっていた。確かここのあたりではなかっただろうか。荘厳な施設を前にして休憩する巡礼者の像。まるで自分の仮の姿を見ているみたい。
土の色が変わっている。赤っぽく粘土質というのだろうか、鉄分を含んでいるのか。豊かな植生のものではなく、もう少し痩せた土地。ここでは平べったい畑、サトウキビのような作物がずらりと並ぶように生えている。一歩踏み入れると迷子になって、誰にも見つからず夜を過ごせるだろう。
朝の時点で歩く距離を決めなかったのは、日中の日差しがどんなものかと知りたかったのもある。最初の頃に歩いた30km近くの距離が辛かった理由として、体力もあるけれど確実に天候の影響があった。35度を超える中で一切日陰のない中を歩くのは相当酷なものだったからだ。しかし今は突き抜けるような青空でも流石にそこまでの高温にはなっていない。時折風が爽やかに吹いて、苦しさは感じないのだ。
実際歩いてみれば都市部から離れる分、工場地帯だったり大きな道路沿いだったりもするのだけれど。
とりあえずVirgenに着いて考えるか…と思ったらあっという間に到着して、それだったらとPáramoまで歩いた。街の中心部ではなかったから、買い物もできない。宿のメニューを注文したらひとり1本のワインとトマトソースのパスタ。味はとても薄く、お世辞でも褒められたものではない。それでもワインがあるからよしとしよう。
秋の到来もあり今の気候で朝早く出発すれば30km近くでも大丈夫かもと思えてきた。大分体幹は鍛えられたのかな。ふくらはぎの筋肉はしっかりもりもり。坂道はもはや平坦な道と同じ速度で歩いている。
Caminoで経験する風景を夢で見たことがある。2日目のRoncevauxで水を汲む友人を待っている間の朝の中庭の景色、アルベルゲの寝室の位置、歩いている道の途中の景色を知っている。まさしくフランス語のdéjà vu(すでに見た)。体験として面白い、私自身このCaminoを歩くと知っていたんだなと。
国道沿いの道。毎日相変わらず歩いているのに道は変化していて何一つ同じものはない。まるで人生、同じことを繰り返しているようでも、よくよく観察してみればまわりは少しずつ変化している。
◾︎ 12/09/2017, LeónからVilladangos del Paramoまで