2日前ほどに風の強い日があった。びゅうびゅうと吹きすさぶその風は北スペインに季節の移り変わりをもたらしたようで、歩いているとかすかに柔らかな秋の匂いを感じる。空は優しく澄んで、この秋の姿は日本でも感じたことががあると懐かしさに胸が高鳴る。季節のなかで秋が1番好きだ。特に落ち葉が舞い上がるほどの風のある秋がいい。
空の向こうをよく見れば、遠くの雲はくっきりとした夏の面影ではなく、秋の表情をこちらに向けている。どこか寂しさがあるだろうか、季節に置いていかれるような、はたまた通り過ぎる世界の後ろ姿を追いかけるような。通りかかった街の公園で、日本にいる友人に連絡をしてみる。「いま、424kmも歩いたんだよ。残り、360kmで目的地に到着するんだ」。
Beloradoの祭りの夜に会ったオーストラリアのステファニーはどうしているだろう。今朝何気なく考えていたら、バルで偶然にも彼女と出会えた。ペース配分も違っていたし、連日ホテル滞在で歩く彼女。再会するのは難しいなと思っていたものだから驚いた。休憩が終わり、2人で歩き始める。
人生のこと、仕事のことを語り合う。「あなたが抱えているその問題はきっと永遠に解決しない、だからとりあえずクローゼットに閉まっておくの。そうしたらいつか、答えに結びつく発見があるかもしれないし、問題が小さくなっているかもしれない。わたしも同じような疑問を抱えていたから分かるよ」「まずは目の前の小さな目標を達成すること、知りたい見たい学びたいという感覚を大切にするんだ」。
おしゃべりをすれば時間が経過するのは早い。Sahagunに到着し、今日は教会を改修した公営アルベルゲで宿泊。
チェックインが済んだら、再度合流しようねとステファニーとゆるく約束をしていたものの、彼女は待ち合わせ場所に現れなくて再会はできず。ホテルでのトラブルがあったのか、別の予定が生じたのだろう。特に執着はせず、明日か明後日にでも会えるかなとその場を後にした。もしかしたら二度と会えないかもしれない。それでもいい、それがいい。
今日も1日が終わる。巡礼は折り返し地点を過ぎ、目的地で何をするかということも具体的に考え始める。
アルベルゲで再びオーストラリアのピーターと会う。ここのところオーストラリアの懐かしいひとたちとの再会が続く。彼とは不思議な縁で、わたしが先に進んだと思ったらひょっこり現れるの。スーパーで購入したサラダを食べながら、隣にいたスペイン人のホセとピーターと3人で会話。
ピーターはどうやらスペイン語が自在に操れるらしい。そういえばHontanasではフランス人のドミニクともスペイン語で語り合っていた。彼が話すその言語は発音が明快で、単語の輪郭がよくわかる。わたしが「ピーターのスペイン語はなんとなくわかる、フランス語と似ているからね」と、言ったらホセがネイティヴのスペイン語で私に向かってべらべらと話しはじめて、「全然わからない!」と焦り、たくさんからかわれてしまった。
豆の缶詰をあたためたピーターは、わたしにも食べるといいよとお皿を差し出した。「タンパク質がたくさんだから、元気がでるんだ」。一口だけ食べたその味は、ただの塩で味付けされた豆で、二口でお腹がいっぱいになった。でも彼が食べるものをわたしも口にすることが、どこか「同じ釜の飯を食う」そのもので、また少しだけ、彼との距離感を縮められた気がした。
ホセは日本の四国八十八ヶ所巡礼について興味を持っている。日本の巡礼はどんなところなのかな、いつかは歩いてみたいと語る。確かにスペインに来なくとも日本に巡礼地はある。遠くへのあこがれから、いまここにわたしはヨーロッパの大地に立っていて、それでもお遍路も同様に歩き続けて自分と向き合うことはまったく同じものである。歩かない理由が見つからなければ、歩いてもいい理由が説得材料になる。次の巡礼目標として検討の余地はあるかもしれない。
▪️08/09/2017, Calzadilla de la CuezaからSahagunまで, 25.9km, 39,105歩▪️