現状と同じ人生を選ぶのか、否か。【カミーノ 巡礼記20日目】

Camino Espagne Europe

6kmと、8kmとお店も街も何もない道だからか、だんだんと感覚が麻痺して今自分がどこを歩いているのかさっぱりわからない。意識を繋ぐのは地面を踏みしめる足の裏の、確かな感覚。もう20日目で445kmも歩いた。残り339km、徐々に目的地までの距離感を掴みはじめている。

歩き始めた当初は、その距離を計算することで頭がいっぱいだったのに、いつしか数字は気にならなくなった。ただ目の前の、今日の1日をいかに楽しむか。上りも下りも、平らな道も、どんなふうにして味わうかしか考えていない。もしかすると、それが最後まで歩き切る秘訣なのかもしれないし、そういう感覚を持ってからこそ本当の巡礼が始まるのかもしれない。

朝ごはんに食べたサンドイッチは久しぶりの食パンだった。カリカリのトーストが懐かしいけれど、中にはさまったハムはスペインらしくしっかり固め。あいかわらず天気はよくて、少しだけ夏を取り戻したようだ。次の街まで歩けば13kmもある、今日は小さな街El Burgo Raneroで切り上げる。

余裕が出てきたからか、Santiago de compostella到着の日程を計算し、あと何日ゆっくりとしたペースで進めるかを考えている。周囲とも「何日に到着する計画で歩いている?」「終わったあとは何をする?」と、予定を話したりする。巡礼が終わりに近づいている証拠である。わたしの目標は9月27日。10月1日はフランスに戻っていたいから、数日間あれば念願のポルトガルに行ける。航空券はLeónに到着して購入しようか、まだまだ不確定。

El Burgo RaneroのレストランLa Costa del Adobe。このお店のチーズソースがたっぷりとかかったポークソテーが絶品だった。スマートフォンを見ながら明日の行程に想いを馳せてのんびり食べていると、店主の親父が私のスマホを取り上げ裏返しにし、紙ナプキンで覆い隠した。そしてニッコリと笑顔を向ける。

食事を楽しめ!ということなのだろう。お店で働く奥さんは、近くに来るたびに「どう?おいしい?」と尋ねる。二人ともこのお店で提供する味に自信があるのだ。たっぷりのワインも飲んで幸福感が増す。明日も通いたいほどだ。家の近くにこんなお店があれば充実した日々を送れるだろう、そう考えていると店内は常連客でいっぱいになった。地元で愛されるお店なのだろうなと実感する。店主は癖があるほうが、コミュニケーションをとっていて楽しいもの。

今日のアルベルゲではひとりで歩く若い日本人の女の子に遭遇。「日本人の方ですか?」と声をかけてもらったなら、尽きることのないお喋りが始まる。2時間くらい話し込み、目一杯笑った。これまでの巡礼地における「何もない景色No,1」「トルティーヤ選手権No,1」決定戦を開催する。

巡礼で出会う日本人の若い子は21歳と22歳ばかり。30代はさすがに仕事もある分難しいのだろうか。おとといCalzadilla de la Cuezaで会った男の子も興味深かった。公務員志望と就職先の方向性は固めているものの、現在は大学を休学して世界を旅しているといった。

わたしがこの時、2017年に大学生だったならどんな生き方を選んでいただろうか。今に至るような同じ選択をして、変わらない人生を望み歩んでいるのか、それともこの巡礼を経験したいと覚悟を決めて別の人生を見つけているのだろうか。

▪️09/09/2017, SahagunからEl Burgo Raneroまで, 18.9km, 29,458歩▪️