Villalcazar de Sirgaの街を出て、早朝にも関わらずまわりの空気が霞んでいたら、すぐさま視界はもやで包まれた。まっすぐの道が続くのは、ここがメセタという台地だから。気候条件がこれまで歩いてきた地域と異なるのだろう、樹木が密集しているわけではないけれど、もやで視界は限定的だ。 わたしはどこへ向かっているのか。たどり着かない場所に向かって歩いているのではないか。目的地は当然見えないし、霧に向かって歩いているということだけしかわからない。数メートル手前になってようやく、看板が現れる。次の街に近付いているという、目に見える確かな証拠である。 数十メートル先は何も見えない。最初の街である…続きを読む
カテゴリー: Camino
シルガの佇まいと平和に想いを馳せて【カミーノ 巡礼記17日目】
朝ごはんは出発地点から6km先にあるFromistaにて、たっぷりのカフェコンレチェとパンオショコラ。このあたたかいカフェが、寝ぼけていた頭をしゃきっと目覚めさせる。スペインのパンはフランスのパンと、決定的に異なっている。良くも悪くも大雑把なのだ。形や味、だけれどもいまのこの巡礼地では繊細さなど必要なくて、素朴さこそが当然嬉しい。 久しぶりに単独行動をする若いフランス人男性を見かけた。フランス人はたいてい年配者で二人組か集団で行動する姿をよく見かけていたので、すこし珍しい。楽しそうにその場にいる人たちと会話する姿をみると、一人でいることが自由度がきいて好きなんだろうなと思う。自分自身も同様で。…続きを読む
あなたにとっての均衡を探しなさい【カミーノ 巡礼記16日目】
明日は満月。ほぼ真ん丸の月に向かって暗闇の中を進む。昨日の不安定な気持ちはトゥールーズのドミニクと1時間ほど話をしていくぶんか、和らいだ。たいした話はしていない。なぜわたしがリヨンに留学しているのか、それはサン・テグジュペリの影響だよというと、彼の話から始まって、フランスと日本の文化の違いや、今の自分の年齢である30歳の頃ドミニクは何をしていたのか、そして彼女の人生について。 共通の知り合いであるピーターに話は及んで、彼女は彼と出会って寂しさが和らいだわ、という。彼と会う5分前に教会にいたの。 誰かと一緒にいるのは面倒だけれど、彼は面白いわね。「教会もきちんと機能するのね(L’ég…続きを読む
孤独とするのか孤高とするのか【カミーノ 巡礼記15日目】
夜が終わる色、青の行き詰まった先の先の色。朝の始まりはそんなグラデーションが広がる。朝日がのぼる反対側に広がる眼前の色はまるで夢の世界のようで、歩いていても現実味がない。死後の世界はこんな景色なのかな。歩いていると、亡くなった人たちに偶然ばったりと会えそうな気さえする。 あの先生のことを思い出した。わたしが大学時代にいちばん尊敬していた人のことを。先生の授業をゼミ生徒としてみっちり聞いて、合宿で神戸の六甲に山登りをしたり奈良の明日香村を散策して運動会に参加したり、共に過ごしたのはわずか1年半ほどしかなかった。でもそれはそれで、濃密な時間だった。 先生は61歳でこの世を去った。まだまだやり残した…続きを読む
時間軸と、街々と、健康な自分の身体【カミーノ 巡礼記14日目】
ホテルでゆっくりと時間を過ごして9時半頃、近くのパン屋さんで朝食。せっかくだからのんびりと街の朝を楽しみたい、だけれども出発が遅れると日中の暑い日差しのなかで歩かざるをえないから出るなら早いほうがいい、と葛藤しつつ、テラスに珈琲を持っていく。緑がとても鮮やかで気持ちがいい、今日も快晴だ。 するとそこには、水色の派手な上着を着たオーストラリア人のピーターがいた。彼に出会うのは二日ぶり。巡礼当初に痛めた足の調子が悪く、スローペースで進んでいるという。とはいってもわたしも無理をしないスケジュールで歩いている。彼とはもう会えないかなと思っていたので、この偶然の再会は本当に嬉しかった。あと数分わたしの…続きを読む
美しさを選ぶのか、効率性を選ぶのか【カミーノ 巡礼記13日目】
「目的地まで”距離は長いけど美しい道”か、”距離は短いけど普通の道”か。さてあなたはどっちを選ぶ?」。分岐する道の途中、この質問を投げかけられた。目的地に早く到着する事だけが答えじゃないからと美しい道を選んだわたし。そして大半の巡礼者もその道を選ぶ。 Burgosの街並みは遠く向こう。小さく見えるのか見えないのか、どうだろう。よく目を凝らしてみれば住宅や建物が密集している場所がある。そんなところまで人間は歩いて行けるのだな、人間の足は強靭である。 ひまわりはすっかり枯れてしまい、うなだれている。巡礼途中に出会った日本人の女の子たちはこの光景をみて…続きを読む
無数の星で無重力を感じる朝【カミーノ 巡礼記12日目】
久し振りに長い距離を歩くので、6時出発と少し早めに。日の出は7時過ぎだからこの時間にアルベルゲを出ると真っ暗だ。そんな暗闇の中目を凝らしてCaminoの矢印を探す。巡礼のサインを見逃さないよう、慎重に。街を抜けると公園があり、これから当分の間は森林に入る。少し怖いなと身震いするも、覚悟をきめて進まなければ。 木々に埋もれた道の手前、ふと空を見上げると、敷き詰められたように広がる無数の星が!何度も写真に収めても足りない、かがやく光。ひんやりひっそり、静謐な雰囲気で、宇宙の存在を感じさせる。この気持ちの正体はなんなのだろう。自分が世界に生きる一つの生命体だという意識が身体の内側から漲ってくる。そし…続きを読む
磔にされるキリストを目撃する【カミーノ 巡礼記11日目】
村上春樹の小説の一節のような時間を過ごした昨夜。それでも特に彼らとの誰とも約束したわけではないから、今朝もまたひとりで歩き始める。朝7時過ぎの朝焼けも美しかった。何度も立ち止まってカメラのシャッターを切ると、あっというまに電池切れ。しまった、充電するのを忘れていた。 最初の街はとても可愛らしかったのにこんな日に限って充電がなくなるなんて…。とはいえそういう日もあるか。写真を取らなくても記憶に残る。そもそも昨晩の食事は思い出にとどめておきたかったから一切写真をとらなかったのだ。 最初の街Grañónで朝ごはん。Barの名前は「My Way」。女子大学生の二人とも再会したので、一緒に朝…続きを読む
言葉にならないほどの、美しい夜。【カミーノ巡礼記10日目】
今日で巡礼10日目!そして歩き始めて217kmを達成し、残り566,5kmとなる。 最初の街Azofraを越えるまでは平坦な道のり。そこからRioja Alta Golf Clubまでの山を超えたら青空が広がっていて、歩いていて気持ちがいい。吹き抜ける風邪は爽やかで暑さも落ち着いてきたし、坂道も段々と辛くなくなってきた。日数で計算しても通常の到達日数が34日というから、全体を通じてみれば1/3弱は達成したということだろう。いつも使っているミシュランの小さなガイドブックの辿った道のりを見れば、客観的証拠となって自分自身に「大したものじゃん」ともいうことができて、少しだけ誇らしい気持ちになる。 道…続きを読む
ミサの途中で博愛精神について考える。【カミーノ 巡礼記9日目】
昨日のNavarreteがすごく素敵な街でアルベルゲも快適だったし教会は美しかったしで、胸いっぱいの名残惜しさを抱えながら歩きはじめる。7時スタート、今日も美しい街に出会えるかもしれないと期待とともに。 道の途中で再会したスウェーデン人のラグナル。サンティアゴまで593kmだと表示があったよ、と話すと、「信じないね!」と疑心暗鬼。優しい頑固さがかわいいおじいちゃんだ。そういえばわたしも最初の頃は距離を見ても、実際よりその道が長いことが多かったから「嘘つき!」と信用していなかったな。 とはいえガイドマップで確認しても600kmは切っている。歩き始めた翌朝Roncesvallesの街でSantia…続きを読む